聴く技術
トゥールミンモデルとは?
イギリスの哲学者スティーブントゥールミンが考案した議論に特化したモデルである。トゥールミンモデル(トゥールミンロジック)という。
議論や討論に慣れている人はご存知かもしれませんが、ディベートに限らず相手の議論は、「根拠」「主張」「論拠」「裏付」「反証」「強度」の6つに分類されている。
この、トゥールミンモデルを意識することで相手の主張を正しく聞くことができる。
トゥールミンモデルについて、詳しくは以下の通りである。
【根拠】Grounds:主張を支える理由・根拠
【主張】Claim:根拠から展開されるひとつの主張
【論拠】Warrant:根拠が主張を支えている理由
【裏付】Backing:論拠が間違っていないことを示す根拠
【反証】Rebuttal:反証可能性
【強度】Qualifier:論理の強さ、定性的な正しさ
また、もう少しわかりやすく説明すると以下の通りになる。
【根拠】「事実」を伝える
【主張】「意見」と「事実」は分けて考える
【論拠】「意見」と「事実」の間には必ず理由がある
【裏付】その理由が「間違っていない」ことを証明
【反証】どんな議論にも必ず反証可能性がある
【強度】最後に「論理」の強度をチェックする
1.【根拠】「事実」を伝える
相手を説得する時は事実を伝えることが大切である。また、事実とは、客観的であり、第三者が「正しい」と認めたものである。
解釈は無数にあるが、事実は一つである。
だから、ある事実をどう解釈するかで私たちは議論をするのである。
2.【主張】「意見」と「事実」は分けて考える
議論の基本は「意見」と「事実」を分けて考えることである。
先ほどにも述べた通り、解釈(意見)は無数にあるが、事実は一つである。
それがゆえ、「意見」と「事実」を分けて考える必要がある。
なぜなら、「意見」とは、主観的な事情であり「事実」とは、客観的な事情であるからだ。
3.【論拠】「意見」と「事実」の間には必ず理由がある
これは単純なことである。
例えば、10,000円のTシャツが販売されていたら私たちは「高い」というだろう。
なぜなら、一般的にTシャツ市場の相場は1,000〜3,980円だからである。
このような前提が共有されているからこそ、私たちは10,000円のTシャツを見て「高い」と判断をするのである。根拠と主張が成立している理由付けのことを、ディベートでは、「論拠」と呼ぶのだ。
ディベートでは、「根拠」「主張」「論拠」の3つで考えることを3角ロジックと呼んでいる。右側の「聴く技術」のところである。
相手の議論を聴いて「根拠」と「主張」を見極めて、論拠に気づくことがディベートにおいては重要である。
ここから先は、トゥールミンモデルの残り3つの論理である「裏付」「反証」「強度」について解説していく。
これまでの「根拠」「主張」「論拠」では、相手のスピーチを聴いて、何を言いたいのかを理解することが目的でした。論理の分析や評価をメインとした、いわゆる反駁の論理に入る。
ポイントは3つである。
4.【裏付】その理由が「間違っていない」ことを証明
先ほど、Tシャツの相場は1,000〜3,980円を論拠に置いた。だから、10,000円のTシャツは「高い」という判断になるのである。
しかし、この論理は、「Tシャツの相場が1,000〜3,900円」という論拠が崩れてしまえば成り立たなくなる。だからこそ「裏付け」では「Tシャツの相場が1,000〜3,900円」という論拠が妥当である、という別の「事実」(理由)を用意するのである。
しかし「裏付け」が可能ということは「Tシャツの相場が1,000〜3,900円」という論拠が妥当でない、という理由を用意すればいとも簡単に論拠を崩すことができるということに繋がる。
5.【反証】どんな議論にも必ず反証可能性がある
相手からの反論・反証のことである。完璧な論理は存在せず、「根拠」「論拠」「裏付」全ての論理にも必ず反論の余地がある。科学の世界では、これを反証可能性と言うのである。
6.【強度】最後に「論理」の強度をチェックする
最後は、論理の「強度」である。ここでは、これまでの論証に対して、あなたが自ら点数をつけるイメージを持って頂きたい。
これは「相対的な正しさ」とも言いかえることができる。つまり、絶対的に正しくはないが、何が正しいかを評価するための論理が、強度(Qualifier)になる。
先ほどの根拠から主張への流れと、ワラント&バッキングとそして反証を通して生き残った論理の状態をそのまま伝えて、最後にどう判定してほしいのかを言葉で表現する。
以上が、トゥールミンモデルの6つの論理であった。この6つの全てがにそろった議論のことを「プリマファシエ」というのである。
トゥールミンロジックは、「伝える」技術ではなく、「聴く」「考える」に特化したあることをご理解頂きたい。また、スピーチには全く役には立たない。
相手の話に耳を傾けながら、何が根拠、主張、論拠かを見極める。相手は必ずしも全てを言葉で伝えてくれるわけではないので、相手の話を聴きながら解釈をしなければならない。考えるのは、相手の話を全てとは言わなくても、一通り聴いてからである。